たなぼた紙工房

2026/06/26 17:00

同僚は
スマホのメモ帳に予定を打ち込み、
雲ひとつない顔で
ポケットへ収めた。

私はと言えば、
分厚い手帳を開き、
書き損じを二重線で塗りつぶす。

「なんでまだ紙なんです?」
彼は笑う。

紙は黙っているくせに
こちらの動揺や焦燥を
そっくり吸い取る。

インクが滲んだ場所は
昨日の私が慌てていた証拠だ。

ページを指でこすれば
乾いた粒子の感触が
“失敗”を愛おしい標本に変えてくれる。

デジタルの完璧さに対して、
紙ものは
欠点をそのまま保存する装置だ。

だから私は救われるのだと思う。
恥ずかしい跡が
やがて笑える化石になる――
紙にはそんな遺伝子が
組み込まれている。

ペンを置くたび、
私はページを撫でてつぶやく。

「よくぞ受け止めてくれた」

紙は相変わらず沈黙したまま、
インクの重さだけを
抱きしめている。


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